東京高等裁判所 昭和42年(行ケ)52号 判決
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〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無)
二 本件審決は、次の点において、本願発明の要旨についての解釈認定を誤り、その結果、引用例記載のものとの対比判断を誤つた違法がある。
(一) 当事者間に争いのない本願発明の要旨のうち「封緘リングの唇状部がリングの軸方向において自由に屈曲しうるごとく可撓性になされており、球が開放位置にあるとき、唇状部が球と出入口の周囲において契合接触する」という要件の意味するところについて審究するに、本願明細書中には、弁座と球との接触の態様につき、「球とまず契合するリングの部分は、彎曲内部面25dと傾斜面25eとを有する無拘束佇立内部唇状部25cである。該唇状部に傾斜面25fが連つており、負荷が掛かかつて該唇状部が充分に屈曲せしめられると、ついに球は該傾斜面25fに座着する。該唇状部25cは、球が弁内部に装備されるとき、球表面に対し或る程度量の干渉を与えるようになされる。」、「縁辺30aの外廓線と部分25dの外廓線とは、球が非負荷状態下に弁内部において執る位置に在るときは、相重なり合つている。干渉デイメンションⅠは弁座に用いられる材料の如何により変化する。全負荷の下において唇状部の全屈曲が、その材料の弾性限界範囲内に維持さるべきことは勿論のことである。」および「球が弁内に装填されるときは、唇状部25cは干渉デイメンションⅠに相応する割合で屈曲せしめられる。然るときは座環は限定された範囲における球との契合接触を有するに至る。すなわち、彎曲部分25dの半径が唇状部の垂直面に入り込んで行く点において球表面とほぼ切線方向に契合接触する。」旨の各記載があることが認められるほか、その「発明の詳細なる説明」の項の記載全般および添付図面の内容の全体を通じて考察するならば、本願発明の封緘リングにおいては、流体による負荷がないとき、および負荷が小なるときは、上流側下流側両リングの唇状部のみが球と接触しており、流体による負荷が大となつたとき、はじめて球は辱状部のほか下流側リングの傾斜面にも接触座着するにいたるものであることが示されており、また、同明細書中の「契合接触」という要件は、唇状部と球が単に「接触」する状態ではなく、前記のように、球が弁内に装填されるとき、唇状部が設計上特定された干渉デイメンションⅠに相応する割合で球により屈曲せしめられるような両者間の押圧関係(原告のいう「前負荷力」を与えられた状態)を意味しており、前記明細書中の「然るときは座環は限定された範囲における球との契合接触を有するに至る」の記載部分は、同明細書中に用いられる「契合接触」の語が、右のような特別の技術上の意味を持つことを定義つけたものであると解することができる。
してみれば、本願発明の要旨中、前記の部分は、球が開放位置にあり流体の負荷がないとき、唇状部のみが球と出入口の周囲において押圧力(原告のいう「前負荷力」)をもつて接触していることを意味するものと解するのが相当である。
この点について、被告は、唇状部が弁の組立てのときから球に対し前負荷力を与えられているという点は、単なる実施の態様として明細書の附記の項に記載されているにすぎないから、本願発明の要件ではない、と主張するけれども、本願の明細書では、前記のとおり、球と唇状部との関係につき、単なる「接触」でなく「契合接触」という表現を用い、その意味合いについて、前認定のように明細書中に定義づけと認めるべき説明をしているほか、明細書中には、球と唇状部とが前負荷力を与えられている場合以外の態様を示す実施例は全然示されておらず、また、極端な高温、高圧下においても緊密な封緘を形成し、弁座の磨耗を減少せしめ、しかも、弁の開閉を円滑ならしめるという本願発明の所期の作用効果が、右のような球と唇状部との「契合接触」の構成によりもたらされるものであることを、明細書の記載全体から、理解しえないではないから――明細書中に、発明の要件に関する説明と実施例に関する説明の別が必ずしも明らかでない記載上の不備は少なくないにしても――被告主張のように解することは相当でない。
(二) 一方、引用例によれば、引用例のコックは、「‥‥各受座リングは、栓の表面と接触する円錐面を有するほぼ三角形断面部分を包含し、」、「栓の孔の軸に最も近い隅の部分は狭い鍔状部分として軸に向かつて延長させ、その背面に対して流体圧力が加わつて、栓に対してこの部分を押圧するようにすることができ、小型のものではそのような流体圧力を加えずに良好な接合が得られるが、弁の大型のものにおいては、かようにすれば接合作用が改良される。」および「登録請求の範囲」の項中の「各受座リング8・8は上記栓の表面2に接触する円錐面を有するほぼ三角形断面部分を有し、」の各記載ならびに添付第一図からみて、各受座リングは、球が開放位置にあるとき、円錐面(本願発明の傾斜面に相当する。)と鍔状部分(本願発明の唇状部に相当する。)の二点において球と接触する構造のものであつて、そこには、本願発明におけるように、鍔状部分のみが球と前負荷力を与えられて契合接触する構造およびそれにより極端な高温、高圧下においても緊密な封緘を行なう等の前記作用効果をもたらそうとする技衛思想は示されていないことを認めることができる(引用例のコックにおいては、極度の高温下に弁の開閉が円滑を欠き、弁座の磨耗を増大せしめるであろうことは、推察に難くない。)
(三) したがつて、本願発明の要旨のうち、前記部分の構成は引用例のものと相違し、この構成上の差異にもとづき作用効果の上でも両者間に差異があるから、本件審決は、両者を技術思想において互いに一致する、とした点で判断を誤つたものといわなければならない。
(むすび)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があるとして本件審決の取消しを求める原告の請求を認容する。
(三宅正雄 杉山克彦 武居二郎)